おしらせ

2020/09/30 14:25


京もの認定工芸師 創る和紙職人

ハタノ ワタル さん

住所 : 京都府綾部市篠田町下岡21

HP : 創る和紙職人ハタノワタル。
Youtube :→黒谷和紙 : 創る和紙職人 ハタノワタル さん

美術大学を卒業した経験を生かして、店舗や家屋の内装用の手漉き和紙を施工まで一貫して請け負っているハタノさん。今までに何度も展覧会を開催し、エンドユーザーと積極的に交流している職人さんです。

2010年9月15日にハタノさんの仕事場にお邪魔して、和紙を漉いて生活されているその様子についてざっくばらんにお話しを伺った記事の再掲載、その2です。

ひとりのお客さんに応える技術を持つのが職人

タキペ竹簀はあれですか。ハタノさんがご自身で買ったものなんですか?高いですものね。20万から30万ぐらい。
ハタノそうですね。借りているやつもありますよ。
タキペ
ハタノさんが黒谷に移り住むようになってから購入されたんですか?
ハタノそうですそうです。
タキペ
ただ移り住めば漉き始められるというわけでもないんですね?
ハタノ基本的に移り住んできたらすぐに紙は漉けますよ。道具を買える余裕がある人なんてそんないないですけれど。僕、これで14年目ですけれど、今ここにいるのが8人位いて。年にひとりぐらいずつ。まぁ、そんなもんとちゃいます。
タキペ
年にひとりぐらいずつやって来るんですね?
ハタノ大体そうですね。一年にそれぐらいしか来る魅力がない(笑)
タキペ
こちらで仕事を覚えてどこか別のところに行かれる方とかはいらっしゃるんですか?
ハタノいないですね。もう居ついちゃって。居ついちゃってというか、すべて搾取されて(笑)移動費ありません、て。僕、疲れましたって辞める人はおるけど。僕もここに来たとき5万円しかなくて、バイトしながらやっていましたから。最初給料ないですからね。昼間はここで働いて技術を覚えて、夜は居酒屋に行ってバイト。
タキペ
それは大体何年ほどバイトとの掛け持ちは続いたんですか?
ハタノそれは2年半ぐらいバイトしていましたね。綾部でもチョコチョコと内装の仕事を貰うんですけれどバイトで知り合った人とかね(笑)
タキペ
ハタノさんは展覧会に積極的ですけれど年に何回ほど、展覧会はやっていらっしゃるんですか?
ハタノ年に10回位やっていると思います。
タキペ
やっぱりそうやってお客さんて集まってくるものなんですか?
ハタノそうですね。注文が入ることがありますね。細かい注文はほとんど断ってしまうんですけれど。大きい量をやるのが僕らの仕事なんで。10~20万とかそこそこ大きな仕事なんですけれど。そういう仕事がチョコチョコと入りますね。この間、山口に行って展覧会をやったんですけれど、展覧会自体では10日ほどやって12~13万円。ほとんど経費で終わりですよね。それで注文が襖の注文と床の注文などで20~30万円貰ってきているんで行ってきて良かったなぁと。
それがある所とない所があるんですけれど。
タキペ
当たる所と当たらない所と。
ハタノ当たり外れが凄いあって予想できない(笑)
タキペ
やってみないことには分からない。去年は良かったけど今年はとか。
ハタノそうですね。
タキペ
そういった展示会は始めるきっかけはどういったところから始めたんですか。
ハタノ展示会ははじめはやっぱりクラフト市ですよね。クラフト市で頑張っていろんなところに行って、最初は地方のに逐一出てたんですよ。五年前に。そこからクラフト市に入って、それから声が掛かって展覧会をするようになって現在に至るんですけれども。展覧会自体がしんどいんで止めようかなぁ、と。大きなところしかやらないとか。これからはこっちに引き寄せるような形をやるのに展覧会を企画していこうかなと思っているところです。綾部に呼んでというものを企画して、作ることによって、黒谷和紙、黒谷とか田舎暮らしの魅力みたいなものも一緒に伝えられるし。準備もかなりできますやろ。地元やし。例えば荷物。山口やったら車で1回分だけやけど、ここやったら5回分ぐらい持っていけたり。そうなると大柄なものもできるし。
タキペ
ここに来て和紙アーティストの方が元気な感じがしますよね。
ハタノそうですね。僕らの修行て量を作って売るのが元々やったけど、今じゃその方法がなかなかできにくくなってきている。一品物ができる人の方に情報が集中しているというか。
量を作って売れるところの需要を持っている人はそれはそれで安心して仕事ができているというか。随分ここ2~3年で考え方が変わったというか。職人とは量を作れなきゃいけないというのが、職人は多分ひとりのお客さんに対して応えられる技術を持ってなくちゃいけないと。ひとりのお客さんというとロット数とか、そんな量のををやっとったら対応は絶対でけへんし。そういう風にシフトチェンジ、今はしてて。
紙の漉いている量が、昔と比べると1/4位にまで落としていますよね。あとは、加工とか営業とか。1/4位にになりましたね。あのペースでいま紙を漉いていても組合に在庫ばっかりさせてしまって、止めてくれて言われて運営ができていなかったと思うんです。そのシフトチェンジをやっていなかったら。。。

超オーソドックスな紙で一点ものの魅力を

ハタノ滝さんはおいくつですか?
タキペ僕、37です。
ハタノそれじゃ変わらないですね。僕らの世代は38なんですよ。その世代が次、次の世代が違う和紙の形を作らなきゃ。も~う今の形はアカンでしょう。そう思うているんですよ。美濃の長谷川さんなんかは情報をオープンにしろ、情報をオープンにしろとずっと言い続けているんですよ。やっぱりそうかなと思いますよ。
タキペ
ある程度情報をシェアしないといけなくなってきている状況ということなんですかね。
ハタノそうそう。誰が儲かる儲からんとかではなくて、全体を底上げせんと。お客さんはおらんようになってしまう。お客さんの取り合いになってしまう。なんか、そうじゃないというか。
タキペ
インターネットが普及したことでグローバル化というのが凄い進んじゃったじゃないですか。だけど、そっちばかりに目が行っているけど、グローバル化と同時にローカル化が進んでいると思うんですよ。だからそのローカル化というのを武器にしたところが勝ちだと思っているんですよね。
ハタノそれで言うと一品ものというのは、完全にローカルになっているわけじゃないですか。これから和紙業界の人たちもそのローカル化。黒谷とかのその土地じゃないとできないものをやっていくというのが一番重要なのかなと思っているんですけど。
でもそれは多分、物が良くないと絶対無意味ですよね。そこなんですよ。そこを作らなくちゃいけないていうか。ローカルの中でローカルっぽいもんでお客さんに提供できるもんで、作れるもんって何やろうと思ったときに、アートよりな感覚をプラスさせたものが出てくるていうか。大量にも作れるし、そっちにも行ける職人が残ってくる。
いまから地方はどんどん面白くなっていきますよ。僕の好きなグラフィックデザイナーって、実は沖縄におったんですよ。この前、山口県の展覧会へ行ったら、偶然その沖縄のデザイナーさんを呼んでやってたんですよ。それは何でかというと、町のデザイナーって町のデザインの感覚すぎて、私たちが言うことを伝えてもらう時に面白くなくなる。少なくとも我々のテンションが下がるんですよ。
多分、越前もプロダクトデザイナーが入っていると思うんですけれど、多分あれって地元の人から見た時、テンション下がるんじゃないかと思うんですよ(笑)
ローカルをローカル感覚でローカル風に売れる人がやっぱり必要で、そうなったらそういった感覚をもっている人たちがローカルとローカルを繋いでいく。そうなってくるともう一回面白いことになっていく。町中のクリエーターの人たちも、ローカルと手を結びたがっているというか。
タキペ
だからローカルとローカルが手を繋いでいっているネットワークってやつですよね。
ハタノそこに何か新しいものというのが見えてきて。今度、ギャラリーを作るんですよ。土壁のギャラリー。それは色々なところからオモロイ職人さんが集まってて。淡路島の左官屋さんと、大阪の植木屋と、和紙の僕と。そんなに感じで集まってああでもない、こうでもないって。
タキペ
いわゆるコラボレーションってやつですね。
ハタノそうですね。それが凄い容易にできる時代になっているし。そこで出来上がった面白いものっていうのは、都会の人の感覚では想像できひんものができる。何かそういう強いものというのは田舎には多い。残っているのは多いですね。京都はまた別ですけれどね。
他の都市に行って、良い仕事のできる環境というのはどんどん無くなってきている代り、人付き合いの横の繋がりのある田舎というのはそういう物が残っていて、今その技術を都会の人たちが欲しがっている気はするんです。
そこに応えますよーという形のものを提案できるっていうことは相談にいかないとできない。そうなったら一点ものの魅力を確かめたりとか。
タキペ
その上で最後たどり着くのはその一品物になるんですかね。それともオーソドックスなもの。
ハタノあくまで僕がやりたいのは職人としての紙で、黒谷和紙の超オーソドックスな紙で一点ものの魅力をやり遂げられたら多分、本物になるんやろぅなと。それをやるために修行してきたと思ってるから。
それはそうですね。僕らの世代はそこまでの人が出るかなて言うたら、なかなか出ない。どんだけ漉き続けるだけの注文を持っているてゆうのはなかなかいないですし。同じ紙を。残念なことに可愛そうな世代ですね。職人て育ちにくい世代なんかな、て。
それでも自分は、超オーソドックスな紙で一点ものの魅力をやり遂げられたらと思います。