おしらせ
2020/09/26 16:59
板垣 好春(いたがき よしはる)さん
板垣桐紙(きりがみ)工業代表。独身、山形県在住。
桐材を薄く削ったものに和紙を裏ちして作る桐紙。真っ直ぐな柾目の木目を生かした桐紙作りは、ひとつひとつの工程に熟練の技術を要し、最低でも10年の修行が必要とされています。2020年現在、日本に唯一となってしまった桐紙職人、板垣好春さんの山形の仕事場に2005年にお伺いさせていただいたときのレポートです。
全部ひとりで出来るようになるには、10年はかかります
いつもはイタガキくんなんて、なれなれしく呼んじゃってますけど…。
山形県の桐紙職人、板垣好春さんご本人の許認可を頂きまして、桐紙がどうやって出来るのか?その全貌を公開します。
板垣さん作業場
「全部ひとりで出来るようになるには、10年はかかります。」
と口にしたイタガキくんの、普段より強めの声の調子に、彼の職人としての自信と誇りを感じました。かなりざっくりとした説明ですが、桐紙の作り方ご紹介いたします。
1.桐を割り表面を粗く削る
年に一度の秋田県で行われる桐の市場で仕入れた桐の木を割って、桐の表面を加工しやすくする。
仕事場の地下室でこの作業は行われます。
出刃包丁の大きい版みたいなもので、桐の木の角を平たくします。
グギゥーーッッッん、ギッギー…
大轟音!
機械仕掛けの大きいカンナで桐の表面を平らにします。そして
こんな状態になります。この側面を“うすく、平たく、均等に”削った帯状のものをきれいに並べて、やっと桐紙になるんです。
2.ていねいに削る
専門用語で“削く(つく)”というそうです。
削き台(つきだい)、と呼ばれる道具。
例えて言うなら“巨大なかつお節削り器”。まず、削る前の微調整に長年の勘と経験が要るとのこと。
“せん”と呼ばれる、削き台の刃を研ぎ、
セッティング。
ゆっくりと丁寧に桐を削りながら、さらに仕上がりを微調整する。
均一に桐が削れてきたところで、本腰を入れて“削き(つき)”始める。
しゅるるる〜〜〜…。・・・見事としか言い様がございません。
これはほんとに凄い。芸術の域ですね…。
見る見るうちに、汗ばんでくる板垣さん。桐紙職人の真骨頂。本日はこの辺で打ち止め。
削き台は木製であるため湿度の変化でその表面が微妙に膨らんだりへこんだりします。
コンマ数ミリのほんのちょっとした変化を嫌い、作業が終わるとすぐ、削き台にビニールと毛布をかぶせます。とても繊細なさじ加減を職人に強いる仕事です。
私も調子にのって挑戦させてもらったんですが…、
左が板垣製、右2枚が不肖、私作。
どうあがいても厚さがまばら、形がいびつになってしまうんですよ。
板垣さんに怒鳴りつけられる前にあっさり降参させて頂きました。
実直な職人としての仕事ぶり
3.重ねて硫酸漬け
そして帯状になった桐を重ねあわせて、
希硫酸水に漬け込みます。そして、水で丁寧に洗い流します。
4.桐を並べて紙と貼りあわせる
水で洗い流した桐紙の束を“ペッタン”と、ガラスが貼られた緑色の作業台に乗せまして、
1枚ずつめくっては、丁寧にガラスの上に並べていきます。
この1枚ずつが、なかなかめくれない…。気を抜いたとたん裂けてしまうんです。
で、きれいに並べ終わりましたら、
桐紙用の特別な糊をはけで塗っていきます。
軽快な動きで糊を塗っていく板垣さんなのです。
そして糊を塗り終わったら、裏打ち用の紙を慎重に貼ります。
はけでしわを伸ばし、ぴったりと貼り合わせましたら、一旦、干します。
5.乾燥、押さえ、完成
1日ぐらい干しておくそうです。
(両面桐紙の場合はさらに1〜2工程あるそうですが、今回は割愛します)
そして大きな万力のような道具で押さえて、そして紙を揃え直し、やっと桐紙が出来上がります。
コレを板垣さんが全部一人でやるのです。とっても男前だと思います。