一度しかできない文様“墨流し”

福井県指定無形文化財

福田 忠雄 さん
ふくだ ただお

住所:福井県越前市大滝町25-25
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電話番号:0778-42-0463
Youtube:
→越前和紙 : 福田忠雄 (福井県指定無形文化財)

福井県指定無形文化財 “墨流し” 保持者・伝統工芸士の福田忠雄氏。“墨流し”の技術は、平安時代にその歴史を遡ることができるとされます。昔から福田家に伝わっていたものではなく、手漉き和紙の生産を生業としていた福田家において「今までと同じことをやっていても厳しい」と判断した福田さんが、試行錯誤の中でなんとか確立していったものです。この度、縁あって、福田さんの“墨流し”の作業風景をいろいろなお話を交えながら、じっくりと収める機会に恵まれましたのでその模様をお伝えいたします。

織り成す模様は、まさに変幻自在

ここが越前市大滝町、福井県指定無形文化財 “墨流し” 保持者・伝統工芸士の福田さんの工房です。扉を開けるとこんな感じで福田さんが仕事中でありました。

これが長い時間を経て確立された、福田さんの“墨流し”の基本フォーム。左手には3本のそれぞれ異なる色のついた筆を、右手には1本、松ヤニのついた筆を持ちまして、こういったスタイルで模様を描いていくのです。

福田さんのお宅の屋号はサスケです。猿飛佐助との関係は恐らく全く無いと思われますが、福田さんが“墨流し”によって織り成す模様は、まさに変幻自在です。染料のついた筆を水につけ、ま〜るく色が広がってきたところで、円の中心に松ヤニのついた筆をつけると、松ヤニが染料をはじいて同心円状に広がります。

これをリズミカルに繰り返すことで、何重もの折り重なった円が出来ます。そしてそれに、「フー、フー、」と息を吹きかけたり、扇子をパタパタすることで、「一度しか出来ない模様」を作るのです。

そして、福田さんが自ら漉いた、吸水性に優れ、尚かつ破れにくい手漉きの和紙を出来上がった模様の上にすっぽりかぶせて、和紙に模様を写し取るのです。

それを鉄板で丁寧に乾かしましたら出来上がりという寸法でございます。

長年の研鑽で積み重ねられてきた熟練の技と経験のなせる技

福田さんの工房には、賞状や写真などがところ狭しと飾られていました。昭和55年に、現在の天皇皇后両陛下が福田さんの工房を訪れた時の写真を筆頭に、無形文化財に認定された時の記念のパネルや、宮中にて勲章を授与された時の写真など、栄えあるものばかりでありました。

福田さんの“墨流し”には当初、地元の人たちはかなり否定的な捉え方をしていたみたいです。それでも、そんな状況をひっくり返し段々と“墨流し”が定着してくると、今度は地元の人たちの中から“墨流し”を真似する人が出てきて、それに加えてその二番煎じの“墨流し”は時間が経つと、「模様が消えてしまう」という致命的な欠陥を抱えていて、それによって、本家の福田さんも「大打撃」を受けた過去があるそうです。

この“墨流し”で難しいのは濃い色で染め上げることで、紙漉きと違って暖かい日和の方が墨の伸びが良い特徴があったりするそうです。その細かい注意点の積み重ね。恐らくは福田さんが“墨流し”用に漉く和紙や、“墨”の松ヤニの調合に細かな経験が生かされているのだろうと思います。それが福田さんにしかできない“墨流し”になっているのかと。

そこはやはり長年の研鑽で積み重ねられてきた熟練の技と経験のなせる技です。

最後に福田さんに「撮った写真をインターネットで公開してもいいですか?」と尋ねると、福田さん夫妻の表情が、ほんの一瞬曇りました。

よくよく聞いてみると、以前インターネットに情報を公開したことによって、直接、福田さん宅に電話がかかってきて「気軽に根掘り葉掘り」墨流しのことについて質問を受ける機会が相当に増えたという事実があったそうです。

人としても伝統工芸士としても、「聞かれたことには誠意を持って応えたい」と思うのだが、なにぶん手作業の仕事なので、質問に答えている時は「手が止まってしまう」とおっしゃっていました。

一枚一枚の紙を売ることが福田さんの「生活の糧」であることに真剣に理解を求めておられました。

そういった姿が私の目には「人間が培ってきた経験にもう少し敬意を払ってもいいのではないか?!」と訴えていらっしゃるように映った次第であり、私自身としても、いろいろと考えさせられました。